第38章 彼女にだけ特別だ

このとき、階下の香澄はまだ真剣な顔で警備犬を追いかけていた。

明らかに犬と遊びたいのだろう。

だが当の警備犬は乗り気ではなく、前方を「はっ、はっ」と荒い息を吐きながら猛スピードで逃げる。

短い四本足が、ほとんど残像を生む勢いでせわしなく回っていた。

男はしばらく面白そうに眺めていたが、ふいに命じた。

「連れて来い。名前は……香澄、だったな」

西野亮平は思わず目を見張る。

「どうしてご存じなんですか?」

記憶が正しければ、これまでの接触はどれも短かった。

絵を届けに行ったときも自分が同行していたが、会話の中で名前が出た覚えはない。

男は淡々と答える。

「描いているときに、...

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